Prologue

【Monochrome】

​プロローグ:白黒の世界

「自分以外の人間は皆【他人】だ。他人が何を考えているのかを理解しようと努めたところで無駄。

 その本人が【本当に思っていること】なんて、本人以外に知る由がないだろう?」


 

 これが、お前の口癖だったな。



 

 まあ、確かにその通りだろう。

 相手のことを分かろうと努めても、
 本心を見抜くなんて到底叶わない。

 

 適当に助言を与え、反対に相手を傷つけたり
 怒りを買ったりしてはまるで意味がない。

 

 どこかの国の言葉を借りると
「本末転倒」ってやつか。


 

「相手を思って一生懸命考える。
 たとえそれが無駄だとしても、」

【行動すること自体】

「それには、ちゃんと意味があると思うよ」

「行動は”結果”だ」
「そうだ?」
「だから、それ自体を無駄だとは、言ってない」
「はあ?」


 

 こうやってお前と、

【考えたところで、答えがある訳もない話】

 をするのが、ボクは好きだったよ。


 

「無駄だと思って何もしないのは、一番良くないって」

「……時と場合による」

「無関心は、相手の”存在を否定”しているのと同じ」
「つまり?」


 相手を【精神的に殺している】よ?

 


「殺すだなんて……」

「何か違うか?」

「いきなり極論を突きつけてくるんだな」

「話は極端な方向へずらした方が面白いじゃないか」


 だって、考えても意味がないんだから。


 

「あまりに飛躍しすぎだ」
「そうかな?」
「間がすっぽ抜けてて、解釈が可笑しい」

「……そもそもさ、無駄かどうかなんて、」


 やってみないと分からないだろ?


 

「どうかな……」

「お前みたいに【やる前から諦めてる奴】には、
 ボクはなりたくありませんねえ」

「……ふふふ」
「なんで笑う?」
「俺とお前は、別人、だろ」

「……あぁ、はいはい、そうですね」

 何故「考えても無駄なこと」を、
 敢えて考えてみるのかって?

 

 そうやってあれこれ頭を悩ませている時こそが、
 一番「人間らしい」瞬間だろ?



 

 嗚呼、なんて馬鹿馬鹿しい……


 

 ******


 

 あれからどれくらいの月日が経ったのか。

 ふと、あの頃を思い出す。

 というより、特にきっかけがある訳でもなく、
 お前は突然頭の中に勝手に甦ってきやがる。


 

「おかえり」

​「ただいま」


 

 そこにいるお前は、あの時のまま。

 若いな、何も変わっちゃいない。

 無の表情に愛想なし。

 他人に無関心な上、距離を詰めようものなら
 すぐに高くて分厚い壁を築き上げてしまう。


 こちらから「理解してやろう」と試行錯誤を凝らして、ようやく言葉が交わせるようになったものだ。


 

 本当に、面倒な奴だったな。


 

 ただ、人間の記憶は
 非常に都合良く出来ているもので。


 

 時間が経つとともに薄らいでいった

【曖昧な部分】

 ここは、”自分で満足がいくよう”に、
 補完して修正が加えられていく。



 

 だから、記憶の中にいるお前は、
 よく笑っていたよ。



 

「そんなに笑ってると、らしくないな」



 その顔に触れようとしても、
 もう、叶わない。


「らしくない?」


 

 本当は素直に笑えるんだろ?


 

「俺が笑っているのは、お前がそんな風に
 俺を【創造】しているからだろ」

「え?」

「さすが、嘘を考えるのがお得意ですね」


 

 ああ、………そう。

 嘘、嘘か、そうか……



 

 分からないことは勝手に「想像」してしまう。


 そうであったらいいのにと、
 勝手に「創造」してしまう。


 

 つまりそれは「嘘」だ。


 

 ああそうだ、お前の考えていたことなんて、結局、
 他人であるボクに分かるはずがなかったんだ。


 考えても答えなんて見つからない。
 無駄、無駄だ。無駄なんだよ、全部。


 

「無駄かどうか、やってみないと分からないだろ」


 

 昔、ボクはお前にこう言ったな。

 今、お前がボクに同じ言葉を投げつけてくる。


 

 その笑顔は、そうだ、ボクを見下しているから
 そんなに歪んで見えるんだな?


 

「まだ、考えるのをやめないのか?」


 

 もういない人間のことをあれこれ考える。
 それこそ、無駄だろう?​


 

 でもな。


 考えるのを止めた時。
 それが、お前が本当に死ぬ時だと、ボクは思うんだ。



 

 ******


 

 何もかも消え去ってしまったこの場所で、
 独りでこうして、月の満ち欠けを観察する。


 嗚呼、なんと、退屈な毎日。


 

 あまりに日が経ち過ぎて、
 今日は一体「いつ」なんだろう。


 

 あの時から「お前」は変わらないのに、
「ボク」はこんなに変わってしまった。



「無駄に考えている瞬間が、一番人間らしいだって?」



 

 記憶の中のお前だけが、にこにこと
 気持ち悪く笑いながら話しかけてくる。


 

「ははは、厚かましいにもほどがあるな?」


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